不道徳な経済学 転売屋は社会に役に立つ、ウォルター ブロック (著), 橘 玲 (翻訳)

経済学の教授であり、アメリカを代表するリバタリアン(自由原理主義)のウォルター・ブロック氏の著作。僕の好きな作家である橘玲氏が翻訳したということで年初に購入したのだが、なかなか読む時間がなくずっと放置していた。本書では例えば「売春婦」、「ダフ屋」、「悪徳警察官」、「闇金融」など、世間一般的に「悪」として扱われるものが、いかに社会に役立っているか、それぞれ10分程度で読める短編のストーリーとして仕上げている。

例えば本書では「恐喝」を「沈黙の対価として、いくばくかの金を請求する商談」と定義している。取引が成立すれば恐喝者は沈黙を守り、成立しなければ言論の自由を行使する。恐喝者は恐喝されるものに沈黙のチャンスを与えるという点で、警告なしに秘密を暴露してしまうゴシップ記者よりはるかにマシなのだと。

こういった視点から「売春婦」や「ダフ屋」、「闇金」、「ポイ捨て」、「中国人」、「ホリエモン」など20以上のトピックを取り扱っており、ものごとを別の視点から捉える訓練になりそうだ。法を守ることは本当に正しいのか、道徳とは何か。多くの人の価値観を根底から揺るがしかねない怪作だ。

ところで最近、ジャニーズの山下智久が17歳の未成年をホテルに連れ込んだことが非難されているが、この本に倣えば、二人の人間が自らの意思で、お互いの利益を満たすべくおこなわれた「自発的な取引」となる (批判に熱心なのは、この取引に直接関係がない「第3者」である)。 確かに未成年とセックスすることは東京都の「青少年の健全な育成に関する条例」に違反する可能性がある。だからといって道徳に違反しているわけでなく、本質的には至当な行為である。「法に背くこと自体が悪」という主張がいかに暴論であるかは、最近の中国の「香港国家安全維持法」に違反したとして周庭氏らが逮捕されているのを見れば明白である。法に背く行為もある場合は適正である。

2020年の春から始まったコロナウィルス流行に伴うマスクの買い占めはどうだろうか。転売屋は売って儲けるためにマスクを買いだめする。マスクが高値で取引されるようになると国民は普段からマスクを備蓄しておこうと思うようになるかもしれないし、メーカーはマスクを増産したり、洗って使えるマスクの開発をおこなったりする。こうした「見えざる手」の効果によって、転売屋の身勝手な行動は、結果としてマスクの供給を安定させるのである(今、これを書いているのが2020年夏だから、冬になったときにもマスクが安定供給されているとすれば、その一部は転売屋のおかげだと言える)。この本に言わせると、マスクを転売してひと儲けを企む転売屋を敵視するのは、はなはだしい正義の誤用ということになる。

この本を読むことで自分の偏った考えを矯正出来るかもしれない。

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