リグロインは革に悪いのか??

最近、William Tempsonさんの靴磨き動画を見ながら鏡面磨きを練習しています。
今日もコロナウイルスの影響により、どこにも行かずに家で靴磨きをして過ごしました。
そして先月の鏡面を落とそうとしたら、普通の靴クリームでも濡れたタオルでも全然落ちないことに気づきました。

それで早速、調べてみたらWilliam Tempsonさんがリグロインを使ってたので、僕もリグロインを使おうと思って、いろいろと調べてみました。
リグロインは革に悪いとか、ブートブラックのハイシャインクリーナーが良いとか諸説あるようです。
それでなぜリグロインが悪いのか、イメージだけで語られていて、結局何が悪いのか全然わからなかったので、そもそもリグロインって何なのか調べてみました。

リグロインとは

さて、リグロインですが、リグロインとは石油性の溶剤と思っていれば、だいたい合ってます。
リグロインとは何者なのかさらに理解を深めるために、まずは、工業ガソリンについて整理をしておきたいと思います。
工業ガソリンはJIS規格により、以下の5つに分類されております。

工業ガソリンの分類

そして、それぞれの主な用途は以下のとおりです。

  • 1号:ベンジン – 洗浄用
  • 2号:ゴム揮発油 – ゴム用溶剤・塗料用
  • 3号:大豆揮発油 – 抽出用
  • 4号:ミネラルスピリット – 塗料用
  • 5号:クリーニングソルベント – ドライクリーニング用・塗料用

さらに工業ガソリン1号はJIS規格により、3種類に分類されます。
工業ガソリンを沸点の違いを利用して、精製することで、石油エーテル、石油ベンジン、そしてリグロインが得られるわけですね。

リグロイン

上記のとおり、リグロインは、 単一の化学物質ではなく、工業ガソリン1号のうち、80℃~110℃で蒸発する炭化水素の混合物で、化学式で書くとCxHyとなります。

リグロインの構成成分(出展:リグロイン、林 純薬工業株式会社)

本文中にも出ましたが、リグロインとは有機溶剤です。

有機溶剤とは、他の物質を溶かす性質を持つ有機化合物の総称であり、様々な職場で、溶剤として塗装、洗浄、印刷等の作業に幅広く使用されて います。

有機溶剤とは ( https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/120815-03.pdf

有機物とは「炭素を含む化合物のうち、一酸化炭素や二酸化炭素のように簡単な構造の化合物を除いたもの」です。
核心に迫ってきました。

リグロインは革に悪くて、ブートブラックのハイシャインクリーナーは問題ないというのがよくわからなくなってきました。
なぜかと言うと、ハイシャインクリーナーの主成分は有機溶剤だからです。
成分は多い順に表記するのがルールなので、大部分が有機溶剤ということになります。

ブートブラック ハイシャインクリーナー

そうすると、今度は ブートブラックのハイシャインクリーナーに含まれている有機溶剤って具体的に何なのかという疑問が湧いてきます。
これは書いてないのですが、石油ベンジンやリグロインやその類のベンジン系(工業ガソリン1号)だと思って良いと考えています。
理由はこれらが有機溶剤のなかでも、①非極性溶媒でロウを溶かすことができること、②危険性が低い「第3種有機溶剤」に該当することです。
リグロインはもちろん第3種に該当いたします。
リグロインは石油ナフサの中に含まれている非極性溶媒です。

出展:有機溶剤を正しく使いましょう

ちなみに一番危険な 第1種有機溶剤にはクロロホルムなどがあります。
ネイルの除光液の主成分のアセトンは第2種有機溶剤に含まれます。
残念ながらアセトンは極性溶媒で、ロウは溶かせません。

要はロウの主成分は脂肪酸で、これは非極性脂質なので同じ非極性のベンジンやリグロインで溶かせます。
一般的に溶媒として使われている安全性の高い非極性溶媒がベンジンやリグロインというわけです。

種類主成分
蜜ロウ
※ビーズワックス
パルミチン酸ミリシル C15H31COOC30H61

リグロインは革に悪いのか?

試薬リグロインの主な用途ですが、カタログに以下のとおり記載されています。
注目すべきは「衣類のシミ抜き」です。
実際、ベンジンとならんで、着物のシミ抜きとして使われております。
どうも得体の知れないものとして恐れる必要はなさそうです。

試薬リグロインの主な用途
・電子機器、精密機器、医学機器等の洗浄
・有機物の再結晶用溶剤
・分析用抽出剤
衣類のシミ抜き
・版画銅板、ステインドグラスの手入れ用、漆希釈等精密アート用

引用:試薬リグロインカタログ(http://www.so-nix.co.jp/shiyaku/j_catalog.pdf

またリグロインは乾燥性に優れているので、表面についたものは直ぐに揮発しますし、残存物が革に蓄積する心配もありません。
医学機器の洗浄にも利用されるぐらいですから、残存物が革に蓄積して…のようなことは全くないと考えて良いでしょう。

出展:試薬リグロインカタログ(http://www.so-nix.co.jp/shiyaku/j_catalog.pdf

試薬リグロインの優れた性能
・精製度が極めて高いため、乾燥後の残存がほとんどありません
・精密機器、医学機器等の洗浄に不向きな物質を厳しく除去しています。
・試薬リグロインによる腐食、錆びの心配がありません。
・油性の汚れをしっかり落とす適度な溶解性を持っています。

引用:試薬リグロインカタログ(http://www.so-nix.co.jp/shiyaku/j_catalog.pdf

次にリグロインを使うと革が乾燥するから悪いと言っている人がいますが、本当にそんなに乾燥します?
表面のクリームが落ちて白っぽくなったことを乾燥していると言ってますか?
白っぽくなったのは本当に乾燥したせいですか?

リグロインは表面のロウを落とす程度にしか使いませんし、すぐに揮発するので革の中に染み込むこともありません。
リグロインを毛嫌いする人は使ったことがないのでわからないと思いますが、皮膚に少しついたぐらいで、なんともありません
そんなに乾燥するなら皮膚につくとヤバいですよね。
まあ、仮に乾燥するとしても、乾燥したまま放置するわけではなく、次の工程で水分と油分を保湿します。

ちなみに革は鞣される過程で、一度脂質を徹底的に取り除かれて、そのあと加脂しているそうです。

なめしの工程では、腐敗しやすい動物の脂を除き、たんぱく質(主にコラーゲン繊維)を変性させる。また、柔らかくするために主に合成の脂(リンスと同じ)を再度入れる(加脂)。

引用:Wikipedia : 皮革

変性とは熱や酸、アルカリによってタンパク質の分子構造が壊れることです。
わかりやすい例をあげると、生卵をゆでると熱による変性で固くなります。

何が言いたいかというと、革は良く生きていると言われますが、化学的には死んでおり、リグロインをちょっと付けたぐらいで大騒ぎする必要はないということです。
すでに死んでいますからね。

長くなりましたが、結論としてリグロインは革に悪くないということです。
少なくとも他のクリーナーより革に悪いという根拠は見当たりませんでした。
他のクリーナーにもリグロインと同じようなもの、すなわち有機溶剤が大量に含まれているからです。
むしろ、ロウを落とすものにロウが含まれているのに違和感があります。
クリーナーでダラダラ落とすより、リグロインでササッと落としてしまったほうが革にも良さそうな気もします。

ということで、リグロインは別に革に悪くないので使えば良いですし、クリーナーとどちらを使うかどうか迷った場合の判断基準はどっちが革に良いかではなく、安全性で良いかと思います。
リグロインもベンジンも引火性が高く、吸い込むと体にも有害です。
ブートブラックのハイシャインクリーナー もこれは同様ですが固形なのと、濃度が低いので、扱いやすく安全性が高いのは間違いないですね。
いずれにせよ、換気と火気に注意し、保管も厳重にしたほうが良さそうです。

そもそも、鏡面磨きしなければいいという議論もありますが、見た目だけではなく、革を物理的に保護するために僕は鏡面磨きをしています。
つま先とかかとは注意してもぶつけちゃいますからね(William Tempsonさんの受け売りです)。

改めて問いますがリグロインって何が革に悪いのでしょうか??

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[参考文献]

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